金曜日, 10月 19, 2012

「一茶撰集」等における短句(七七句)





 「一茶撰集」等における短句(七七句)

〔『たびしうゐ』〕:寛政七年(一七九五)・一茶撰                    
(「月うつる」の巻)                             
 1 風こゝちよき入梅晴(つゆばれ)の道                   

○久しぶりの梅雨晴れで、この旅路は大変に心地良い。
(この連句は「芭蕉堂之会」という前書きがあり、寛政七年三月四国から大阪に戻って来た一茶は、その 夏、京に上り、洛東芭蕉堂に闌更を訪問した時のものである。一茶は亜堂の号で闌更の発句に対して脇句で応えたものである。)                       

(「羅(うすも)の巻)                           

 2  身は涼風に任せぬる月                         

○あの月は、すっかり涼風に身を委ねているように見える。
(この連句には「浪華に足留ムアリ東に赴クアリ、共に是雲水」との前書きがあり、尺艾(しゃくがい)の発句に対する脇句である。)

〔『さらば笠』〕:寛政十年(一七九八)・一茶撰                      
(「蝶飛んで)の巻)                            

  3  長閑(のどか)過(すぎ)たるあちこちの雲              

○ どの雲も余りにものんびりした趣である。

  4  空なつかしきあけぼのゝ鐘                 

○ 空を見ていると懐かしい明け方の鐘の音が聞こえてくる。                 
  5  もっと咄(はな)せと枕くばりて 

◎ 寝ながらでもその話しの続きが聞きたいと枕なども用意してくれた。                       
(二句唱和の付句)    

  6  しばし手を組みひざをくむ月                    

◎ あまりにも名月なのでやおら手と膝を組みなおしました。
    
(「正月の」巻)   

  7  春風も夜はみぞれ也けり                            

○ 昼間の春風駘蕩とした陽気も夜になり霙となってしまった。              

  8  だらだら鐘の秋の涼しき                          

○ のんびりと間の抜けた鐘の音を聞いているうちに何時の間にか涼しい秋となってしまった。                                
  
  9  鮗(このしろ)やすき風が吹く也 

○ 鮗も良い値がつかない相場風となっている。                     

  10 小菊二枚に蟻を遊ばす       
               
○ 小さい和紙の鼻紙二枚に蟻を遊ばせている。                     

(「人の栖」の巻)     

  11 鶏(とり)三声程長閑也けり      

○ 鶏の三つ位の鬨の声以外は物音一つしない長閑な風景です。              

  12 一番船の貝(バヰ)のうれしき                    

○ 早朝の一番船の貝は何よりのものだ。     

  13 溝にづぶづぶ白芙蓉さす                          

○ その溝に白い大きな芙蓉の花をずぶずぶと差していった。                             
  14 三夜の夢に似たる暁     

  ○ 今日の暁は結婚して三日目の夜が明けた夢にも似た気分です。                           
  15 車に挽(ひか)スそばの白露     

○ 荷車に道端の白露が轢かれていくようです。                                   
  16 草履片々猿にはかれし

○ 私の草履を猿がカタカタと履いていってしまった。                                
(二句唱和の付句: 発句は闌更)

  17 東はいまだ寒げなる空 

◎ 東の空はまだ明けきらずどことなく寒々とした雰囲気だ。                             
〔『三韓人』〕 文化十一年(一八一四)・一茶撰  (「雪ちるや」の巻)    

  18 丸書(かき)なぐる壁の秋風      

○ 丸などを書きなぐった壁の落書きに秋風が吹いている。 

  19 大さかづきに入相の月   

◎ 大さかづきに日没時の月の影がさしている。                                   
(「江戸へいざ」の巻)  

  20 参り候御犬三疋(びき) 

◎ 御犬様三匹が只今まかり出ました。 

〔『菫艸(すみれぐさ)』〕  
 文化七年(一八一〇)・春甫撰                       

(「山路来て」の巻: 脇起し歌仙)

  21 なまぐさなべを水に浮(うか)して 

○ 魚臭い鍋を水に浮かしています。  

〔『木槿(むくげ)集』〕 
 文化九年(一八一二)・魚淵撰   

 一茶の短句は見当たらない。しかし、この集には、短句(七七句)を主眼とした次のような俳諧歌風の付句が収載されている。

(人もらぬ門田の鳴子明くれに) 

   おとづれたえず渡る秋風   

(難波潟あしの枯葉に波こえて)    

   光も氷(こほる)冬の夜の月   信胤 

(うつしうえて行末とほくことのはの)    

   ともとちぎらん和歌の浦松    公晴 

(海原や沖つしま山波遠く)       

   見渡すゑにしらむ黄雲(しののめ) 有実 

(鳴せみの声しぐれをさそひきて)     

   あきのけしきの森の下風      黄中 

〔『あとまつり』〕   
 文化十三年(一八一六)・魚淵撰  

(「御宝前に」の巻) 

  22 わらぢ掃(はき)こむ背戸の入海  

○ 裏の入口の方には海が開けていて履きこんだ草鞋がたてかけてある。 

  23 大福餅でまねく旅人

○ 大福餅を見せながら食べていきなさいと旅人に呼びかけている。

  24 連歌召せめせ萩も候

○ 萩が見頃で連歌でもやりましょうと誘っている。

  25 まうしあはせて羽織着る也 

○ 申しあわせて皆なが羽織姿である。

  26 鳩に節句をさする苣(ちさ)畑     

○ キク科のちしゃ畑は鳩の節句の恰好の餌場となっている

  27 ほまち祭りの小けぶりの月

○ 本祭りではない臨時の祭りに小さな煙りがたちこめ月も出ている。

  28 霰来よこようらの畑に

○ 裏の畑に霰よコンコンと降ってこい。    

  29 目利(めきき)の通り晴るゝ朝空    

○ 予想していた通りに朝の空は晴れ上がっていた。

  30 俳諧囀(さやづ)る雀うぐひす

○ 連句に興じているように雀と鶯とが囀っている。

(「朝明け」の巻)

  31 ざくざく砂利をあらふ陽炎

○ 陽炎のたっている日ザクザクと音をたてながら砂利を洗っている。

〔『杖の竹』〕
 文化十四年(一八一七)・松宇撰 

(「隣から」の巻)  

  32 山郭公(ほととぎす)大晴(おほばれ)の月                          
○ 山ホトトギスの声が聞こえてくる。空は雲一つなく月もかかっている。

〔『たねおろし』〕
 文化九年(一八一二)・素鏡撰   

(「見るうちに」の巻)

  33 種四五俵を漬ける門沼  

○ その門の前の沼地には四五俵の種を全部呑み込んだように蒔いてしまった。                     
  34 垣の代りに紫苑(しをん)咲(さく)也 

○ 垣根の代わりのように紫の紫苑が咲いている。

  35 かり着次手(ついで)にのぞく町内   

○ かり着をしたついでにその者の家の辺りの様子をうかがった。                           
  36 この赤壁にむだ書(がき)無用  

○ この赤壁に落書きはしないで下さい。 

  37 愚僧が畠もかすみ候  

○ この愚僧の畠もこの霞で見えません。   

  38 文の先にて島をかぞへる  

○ 手紙の先のところ指さしながら島が幾つあるか数えました。

  39 魚喰ひがてらさそふ旅笠     

○ 魚を食いながら旅笠などを見ているとそぞろ旅心がついてきます。                         
  40 そこは酒組(ぐみ)ここは餅ぐみ 

○ こちらは酒好き組みであちらは餅好き組みてす。

  41 撰集に入りし乞食(こつじき)の庵  

○ 撰集に乞食の庵の名で入選している。

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