金曜日, 10月 19, 2012
「足利大岩毘沙門天俳額」のあらまし
「足利大岩毘沙門天俳額」のあらまし
「俳額」(はいがく)とは神社や仏閣に祈願のため奉納した俳諧(連句)や発句(俳句)を記した額のこと。奉納和歌・奉納連歌へと引き継がれ、その余風は現代にまで及んでいる。作品を扁額に掲げるものを俳額(又は掲額)といい、神灯に記すものを奉灯という。そもそもは、音楽や詩歌などを手向け神仏の心を和らげようとする法楽思想に基づいたものであったが、当時広く行われていた奉額句合わせは,一般から投句を募集し、選者の選句を経て、清記・掲額に至るのを通例としていた。
しかし、この足利大岩町の最勝寺(通称大岩毘沙門天)に文化七年(一八一〇)三月に奉納された俳額(整理番号二十五)は、当時の一般的な奉額句合わせのものとは別種のもので、願主(足利の六名の俳人)が諸国の著名な俳人(六十三人)に出句を依頼して奉納掲額をしたもので、その出句依頼への謝礼だけでも相当な出費を要したことが容易に推測され得る貴重な俳額といえるものであろう(丸山・前掲書)。
内側は縦五十五センチ、横一八〇センチで、頭書に「奉納俳諧之発句」とあり、末尾に「文化七歳庚午三月」と年記し、「東苑源道書」とある。そこに記載されている句と作者は次のとおりである。
(便宜上、句頭に整理番号を付して、適宜、その詠みを付した)。
一 我影(わがかげ)はなべて桜の木の間かな 尾張 士朗
二 秋の夜のあはれに負(まけ)て寝たりけり 京 蒼?
三 みよし野の始(はじめ)は知らず花の春 江戸 完来
四 花二つ頓(やが)れてすれあふ牡丹かな 大阪 尺艾
五 初ざくら花の世中(よのなか)よかりけり 伊予 樗堂
六 木(こ)がらしやたヾ白妙(しろたへ)のふじのやま 薩摩 關叟
七 かくれ家に大き過(すぎ)たり雪の笠 甲斐 可登里
八 咲(さく)けしの花の底までひとへかな 伊賀 若翁
九 名月や古郷(こきゃう)の空も水のうへ 信濃 素檗
一〇 巾厨(かや)かして遊び明(あか)すや星一夜 和泉 喜齋
一一 尾上(おのへ)よりはやみる風にほとゝぎす 陸奥 冥々
一二 花を切つて蘭を養ふ夕(ゆふべ)かな 尾張 岳輅
一三 うしろには松の上野を冬籠(ごもり) 江戸 成美
一四 西とみへて日は入(いり)にけり春の海 京 百池
一五 秋の日の見事に暮(くれ)て月夜哉 大阪 八千坊
一六 日の暮(くれ)ておもへば多きさくら哉 加賀 雪男
一七 皆起(おき)よ車見せうぞ淀の月 大阪 長齋
一八 名月や芦のひと夜を塩肴 京 岱季
一九 草臥(くたびれ)て夜は寝入歟(ねいるか)木々の蝉 近江 鳥頂
二〇 いつまでもいつまでも(※おどり記号)鶴は和哥の浦 尾張 竹有
二一 雪風がまだうしろふく山ざくら 上野 鷺白
二二 おもしろふ時雨て来たり旅の馬 長崎 台(※革編)風
二三 吉野やま松より花の年古(ふる)し 阿波 八朔房
二四 霧分(わけ)てわが馬なづむゆふべかな 近江 蜃州
二五 鹿鳴(なき)てながめられけり夜の山 京 瓦全
二六 夜桜や雉子もなかずは居られまじ 兵庫 一草
二七 夕立や山わかれせし鷹二つ 信濃 柳荘
二八 □や何ひとつなき砂のうへ 尾張 臥央
二九 元日は嬉し二日はおもしろし 京 丈左
三〇 家五尺あとへひかばやむめの花 三河 卓池
三一 はつ茄子(なすび)ほろりとにがき斗(ばかり)也 京 月峰
三二 夏山やものいはぬ人のふたり行(ゆく) 大阪 魯隠
三三 油なき明(あか)りに似たりあきのやま 出羽 長翠
三四 うれしさは神路の山にけふの菊 相模 葛三
三五 文月や海山ひとり秋の月 安芸 篤老
三六 花守の木がくれあへて見ゆる也 筑前 瑞芝
三七 雪ゆきを打てけぶれる林かな 江戸 午心
三八 引汐(ひきしお)の果なく霞む夕(ゆふべ)かな 播磨 玉屑
三九 きのふまで松の上野の初ざくら 江戸 春蟻
四〇 濡(ぬれ)てこそ蜑(あま)が子といへ夏の海 奈良 空阿
四一 初月とまではなりけり浦の家 大阪 奇淵
四二 出て見れば小雨ふる也花月夜 筑前 萬井
四三 涼しさや何見ても灯は捨(すて)られず 長門 羅風
四四 柳みて居ればくれ行(ゆく)堤かな 京 其成
四五 露けさや秋は夜がちの草の家 大阪 升六
四六 稲妻や豆に兎のつきそむる 甲斐 嵐外
四七 閑居鳥水こちこち(※おどり記号)と東洩る 伊勢 丘高
四八 こはごは(※おどり記号)に空にこぼれてけふの月 大阪 瑞馬
四九 翌(あす)かあすか(※おどり記号)とまではきのふの初桜 江戸 定雅
五〇 名月の御覧の通り屑家哉 江戸 一茶
五一 たち葉たれ葉ばせを秋立(たつ)けしき哉 南部 平角
五二 名月やくらぶるものは山と水 近江 志う
五三 夜明たらふたつになるやほとゝぎす 江戸 はまも
五四 ははその木限(かぎり)は雪の梢かな 武蔵 星布
五五 何処までも月の下也鳴(なく)千鳥 能登 寒崖
五六 大原や人へは吹(ふく)にはるの風 周防 鯨牙
五七 散(ちる)さくら月もおしみて明残(あけのこる) 豊後 不騫
五八 忘れたぞ花にさくらに草の庵 大和 萬和
五九 啼聞ふ木曾の檜笠とほとゝぎす 江戸 巣兆
六〇 腰の螺(ほら)菫つむにはむつかしき 陸奥 乙二
六一 けふの月扨(さて)もおしまぬ光かな 江戸 道彦
六二 名月や是をむかしの秋の月 大阪 麦太
六三 香を踏(ふみ)て蘭に驚く山路かな 同 月居
① 夕暗(ゆふやみ)やぬれぬれ(※おどり記号)しくもきヾす鳴(なく)
足利 和井
② 十ほどの蝶が皆舞ふ真昼かな 麦茂
③ 古池を競(きそふ)なるらむ百合の花 春山
④ 長閑(のどか)さやよくよく(※おどり記号)聞けば霍(つる)の声
左鶏
⑤ 初厂(はつかり)や月のおかしき水の上 徐来
⑥ 石亀を水もはなれよ友ちどり 里山
⑦ 花ぐもりよろず桜を恋にせん まさき
⑧ うぐひすや有明の戸に竹のかげ 官鯉
⑨ 大空や花のあけぼの押出(いだ)し 雄尾
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 件のコメント:
コメントを投稿