1-5 かげろふや野馬(のうま)の耳の動く度(たび)
かげろふに寝ても動くや虎の耳 其角「其角発句集」
野馬(かげろふ)に子共あそばす狐哉 凡兆「猿蓑」
陽炎や名もしらぬ虫の白き飛(とぶ) 蕪村「蕪村句集」
かげろふや簣(あじか)に土をめづる人 蕪村「蕪村句集」
この句には、「四睡図」という前書が付してあり、『其角発句集(坎窩久臧考訂)』では、「豊干禅師、寒山、拾得と虎との睡りたる図」との頭注(同書p180)がある。
其角が、どういう「四睡図」を見たのかは定かではないが、実は、其角の師匠の芭蕉にも、次のような「四睡図」を見ての即興句が遺されている。
この芭蕉の句は、「おくの細道」の「羽黒山」での、「羽黒山五十代の別当・天宥法印の『四睡図』の画賛」なのである。
芸阿弥(室町時代)「四睡図」(部分拡大図)(「ウィキペディア」)
長沢芦雪筆(18世紀)「四睡図」(部分図)(「ウィキペディア」)
菱川師宣(1701年)「四睡図」(部分図)(「ウィキペディア」)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%9B%E7%9D%A1%E5%9B%B3
この「柴胡(さいこ)の糸」というのは、薬草の「セリ科の植物のミシマサイコの漢名、和名=翁草」で、その糸ような繊細な「柴胡」を、「糸遊」の別名を有する「陽炎」と「見立て」の句なのである。
そして、其角は、芭蕉の、その「糸ような繊細な『柴胡』=「陽炎」という「見立て」を、「かげろふ」=「陽炎」=「薬草の糸のような柴胡」(芭蕉)=「蜉蝣(透明な羽の薄翅蜉蝣・薄羽蜉蝣・蚊蜻蛉)」(其角)と「見立て替え」して、「蕉風俳諧・正風俳諧」(『猿蓑』の景情融合・姿情兼備の俳風)から「洒落風俳諧」(しゃれ・奇抜・機知を主とする俳風)への脱皮を意図しているような雰囲気なのである。
かげろふや/土もこなさぬあらおこし 百歳
かげろふや/ほろほろ落る岸の砂 土芳
いとゆふのいとあそぶ也虚木立(からきだて) 伊賀 氷固(ひょうこ)
野馬(かげろふ)に子共あそばす狐哉 凡兆
かげろふや/柴胡の糸の薄曇 芭蕉
(「洒落風」其角俳諧)
かげろふに寝ても動くや虎の耳 其角「其角発句集」
かげろふや野馬(のうま)の耳の動く度 抱一『屠龍之技』
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:%E9%A2%A8%E6%B5%81%E5%9B%9B%E7%9D%A1_%E8%8B%B1%E4%B8%80%E8%9D%B6.jpg
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