4-1 うぐゐすに北野の絵馬(えうま)かゝりけり
【関連季語】 笹鳴、老鶯
【解説】
鶯は、春を告げる鳥。古くからその声を愛で、夏の時鳥、秋の雁同様その初音がもてはやされた。梅の花の蜜を吸いにくるので、むかしから「梅に鶯」といわれ、梅につきものの鳥とされてきた。最初はおぼつかない鳴き声も、春が長けるにしたがって美しくなり、夏鶯となるころには、けたたましいほどの鳴き声になる。
【来歴】 『花火草』(寛永13年、1636年)に所出。
【文学での言及】
鶯の谷より出づる声なくは春来ることをたれかしらまし 大江千里『古今集』
【実証的見解】
鶯はスズメ目ウグイス科ウグイス属の留鳥で、日本各地の山地の明るい笹薮などに生息する。体長十五センチくらいで、雀ほど。背がみどりがかった茶褐色で、腹はやや白っぽい。食性は雑食で、春から夏に虫を捕食し、秋や冬には木の実や植物の種子などを食べる。時鳥の托卵の対象となる。
【例句】
鶯や柳のうしろ藪の前 芭蕉「続猿蓑」
鶯や餅に糞する縁のさき 芭蕉「葛の松原」
鶯を魂にねむるか矯柳(たうやなぎ) 芭蕉「虚栗」
鶯の声や竹よりこぼれ出る 才磨「塵の香」
鶯や下駄の歯につく小田の土 凡兆「猿蓑」
鶯の声遠き日も暮にけり 蕪村「蕪村句集」
鶯の啼やちいさき口明て 蕪村「蕪村句集」
どこでやらで鶯なきぬ昼の月 士朗「枇杷園句集」
鶯の静かに啼くや朝の雨 成美「いかにいかに」
「本所番場・酒井家下屋敷(酒井下野守)=A図」(隅田川東岸)と「駒形堂」(隅田川東岸)
「切絵図に見る江戸時代の駒形堂)=B図」(隅田川西岸)
https://tokyo-trip.org/spot/visiting/tk0309/
この句の句意には、この「うぐゐすに北野の絵馬(えうま)かゝりけり」の「北野」に仕掛けがあるようで、これは、京都の「北野天満宮」の、菅原道真(菅贈太政大臣)の、次の「鶯」の和歌を踏まえているような雰囲気なのである。
ふる雪に色まどはせる梅の花鶯のみやわきてしのばむ(『新古金和歌集』1442)
そして、さらに、この「絵馬かゝりけり」の「絵馬」も、「えま」ではなく「えうま」または「えこま」の詠みということになろう。「え・こま」というのは、「(第一)こがねのこま(金馬門=大手門)」の、南畝・抱一らの「座」(連句会・俳句会)の暗号的・符丁(合言葉)的な意が、この「こま」(駒=馬)のようなのであるが、ここでは、「絵・馬(うま)」の詠みのように解したい。そして、それは、「北野天満宮」の道真の「一願成就のお牛さま」に連動していて、ここでは、「一願成就のお馬さま」というのが、この句の抱一の趣向ということになろう。
句意は、「談林俳諧の祖の『西山宗因千句』に因んで、ここに『十鳥千句独吟』に挑むことにした。そのスタートの発句に、『北野天満宮』の『菅原道真(菅贈太政大臣)』の『鶯』の一首にあやかって、『鶯』を据え、その作句の座の掛軸として、『一願成就のお牛さま」』ならず、『一願成就のお馬さま』の絵軸を掲げることにした」というようにして置きたい。」
「一願成就のお牛さま」(北野天満宮境内の北西に位置する牛舎にお祀りされている臥牛は、当宮で最も古いものであると伝わっており、少なくとも江戸時代にはすでに、「一願成就のお牛さま」として親しまれていたことがわかっています。)
https://kitanotenmangu.or.jp/story/%E5%8C%97%E9%87%8E%E5%A4%A9%E6%BA%80%E5%AE%AE%E3%81%A8%E7%89%9B/
「酒井抱一: 梅に鶯」(部分図) 19世紀 183.5×46.5 cm メトロポリタン美術館
http://blog.livedoor.jp/a_delp/2021-01-02_SakaiHouitsu
(参考=未整理)「十鳥千句独吟」周辺
4-2 とぶ迄を走(り)つけたる春雉(きぎす)哉 → 「雉」
※春雉《きぎし》鳴く高円《たかまと》の辺に桜花散りて流らふ見む人もがも~作者未詳 『万葉集』 巻10-1866 雑歌
4-3 乙鳥や汲(くん)ではなせし桔槹(はねつるべ)→「乙鳥」(おつどり・つばくら・つばくろ・つばめ)
4-4 ほとゝぎす鳴(く)やうす雲濃紫(こむらさき)→「ほとゝぎす」(時鳥・杜鵑)
4-5 魚狗(かわせみ)や笹をこもれて水のうへ→「魚狗」(かわせみ)=翡翠(かわせみ、かはせみ)
4-6 田の畔に居眠る雁や旅つかれ → 「雁」
4-7 山陵(みささぎ)の吸筒さがす夕(ゆうべ)かな →山陵(みささぎ)=鵲(かささぎ)三秋か?
4-8 木兎(みみづく)も末社の神の頭巾かな →木兎(みみづく)=木菟(みみずく/みみづく) 三冬
4-9 おし鳥のふすまの下や大紅蓮(ぐれん)→おし鳥=鴛鴦(おしどり、をしどり)三冬
4-10 蒼鷹の拳はなれて江戸の色 →(青鷹・蒼鷹=あおたか・あをたか・そうよう)=鷹(たか)三冬
4-11 夕立や静(か)に歩行筏さし → 「鳥」が「ヌケ」になっている。
※「日の春をさすがに鶴の歩みかな(其角)」=(「丙寅初懐紙」)季語=日の春(新年)の「鶴」を「夕立」(夏)の「鶴」の句に反転化しているか?
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