月曜日, 4月 23, 2007

蕪村の連句(序)



 
  蕪村の連句(序)                                    

 俳諧史上三大俳人といわれる芭蕉・蕪村・一茶の俳句(発句)の数は、井本農吉著の『芭蕉とその方法』(「連句の変化とその考察」)によれば、芭蕉・約一千句、蕪村・約二千八百五十句、そして、一茶は、実に、約一万八千句という。そして、これが連句(俳諧)になると、芭蕉・約三百八十巻、蕪村・約百十二巻、そして、一茶二百五十巻となる。続けて、同著によれば、「大雑把であり伝存の限りのことだが、連句に対して発句の比重の高まる大勢は察せられる」としている。                                

 芭蕉・蕪村・一茶という、点から点を結ぶ俳諧史において、明治に入り、正岡子規の俳句革新によって、俳諧(連句)が葬り去られる以前において、俳諧(連句)から俳句(発句)へという道筋は、ほぼはっきりとしていたということであろうか。

 これらのことに関して、丸山一彦氏は、「蕪村を契機として、それ以後になると兼題(けんだい)・席題( せきだい)による発句の会が盛んとなり、連句の制作というのはむしろ敬遠される傾向にあり、一茶の連句になると、芭蕉や蕪村のそれと比べて付味も粗雑で作品としても整っていない」との指摘もしている(丸山一彦・「一茶集・連句編」・『完訳日本の古典 蕪村・一茶集』所収)。          

 ということは、俳諧(連句)というものは、芭蕉・蕪村・一茶という、点から点を結ぶ俳諧史において、それは、蕪村までで、それ以降のものは、芭蕉の俳諧(連句)鑑賞ほどに、その鑑賞に耐えるものは、ほとんど存在しないということがいえるのであろうか。                    

 それにしても、これら三人の俳句(発句)に関する鑑賞・解説の類はほぼ完備されつつあるのに比して、こと連句(俳諧)のそれになると、これは、芭蕉を除いて甚だ未開拓の分野といわざるを得ないのである。蕪村の連句(俳諧)のそれにしても、その全体像を明らかにし、それに、やや詳細な校注を加えたものは、昭和五十年代の、大谷篤蔵・岡田利兵衛・島居清校注・『蕪村集 全』(古典俳文学体系12)においてであった。そして、個人で、これらの鑑賞・解説の類の、ほぼ全容にわたって挑戦したものは、わずかに、これも、昭和五十年代の、野村一三著『蕪村連句全注釈』を数える以外に、それを例を見ない。                    

 そして、『蕪村集 一茶集』(暉峻康隆校注・完訳日本の古典58)の「蕪村 連句編」などで、芭蕉とは異質の、高踏的な文人趣味の、いわゆる蕪村調の連句(俳諧)の幾つかについて、それをかいま見るだけで、この文献の少なさが、逆に、無性に、蕪村一派のそれを見たいという衝動にかられてくる。            

 と同時に、これらの蕪村の連句(俳諧)の文献に接してみると、必ずや、昭和の初期の頃刊行された、潁原退蔵編著・『改定 蕪村全集』につきあたる。この著書の、この分野に与えた影響は、それは想像以上に大きなものがある。しかし、その原著に直接接するということも、その刊行以来、半世紀以上が立つ今日において、これもまた、はなはだ困難な状況にあるということも認めざるを得ない。                    

 また、蕪村一派の俳諧(連句)といわず、その一派の俳句(発句)の魅力にとりつかれると、どうしても、これまた、その発句に対すると同程度の連句の世界をかいま見たいという衝動にかられてくるのである。そして、夜半亭二世を継ぐ与謝蕪村は、夜半亭一世宋阿(早野巴人)そして夜半亭三世を継ぐ高井几菫とその周辺の俳人達には、実に、興味を駆り立てる群像が林立しているのである。                      

 いや、それだけではなく、蕪村の連句(俳諧)を知るということは、これは、芭蕉の連句(俳諧)が、どのように変遷していったのかか、さらにはまた、連句(俳諧)が省みられなくなった今日において、その連句(俳諧)の再生ということは可能なのであろうか等の問題点について、何かしら解答が、その中にあるような予感がしてならないのである。                                 
このような観点から、そしてまた、「芭蕉に帰れ」と中興俳諧の中心人物となった蕪村とその周辺の俳人達の群像はどうであったのか、そんなことを問題意識にしながら、蕪村の連句(俳諧)の概括を試みることとする。 この蕪村の連句(俳諧)の概括するに当たっては、その全体像の百十二巻のうちの五十六巻について頭注等を施している、この分野の唯一の古典たる潁原退蔵編著の『改定 蕪村全集(昭和八年改定増補版)』をその中心に据え、その私解的鑑賞を試みることとする。                

 (参考文献)                                           
① 『改定 蕪村全集』・潁原退蔵編著・更生閣・昭和八年改定増補版                ② 『蕪村集 全』(古典俳文学体系12)・大谷篤蔵・岡田利兵衛・鳥居清校注・集英社・昭和五〇     
③ 『蕪村連句全注釈』・野村一三著・笠間書院・昭和五〇
④ 『蕪村集 一茶集』(完訳日本の古典58)「蕪村 連句編」・暉峻康隆校注・小学館・昭和五八    
⑤ 『座の文芸 蕪村連句』・暉峻康隆監修・小学館・昭和五三                    
⑥ 『此ほとり 一夜四歌仙評釈』・中村幸彦著・角川書店・昭和五五                                
 (補注)                                             
① 参考文献の校注等については、右の文献等から適宜取捨選択をしており、必ずしも、統一はされていない。 また、⑤の『此ほとり 一夜四歌仙評釈・中村幸彦著』など、詳細な解説がなされているものは、極力、その 著書からの引用するように心がけている。                              
② 特殊文字等の幾つかについて、平仮名を使用している。その箇所については、☆印を付している。    

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